仏教アワーをお聞きの皆様、おはようございます。今朝は、岡山市北区庭瀬の大坊不変院住職、秦宏典がお話しさせていただきます。
かつてない炎暑に耐えがたい日々が、いつまで続くのかとうんざりしておりましたら、今度は、記録的な豪雨に脅かされ、あまりの異常気象に憂鬱な毎日でございました。
ところが、それが治まると、想像できないほど心地よい秋日和でございます。おまけに、2020年のオリンピック開催地が日本に決まり、今までの憂鬱はもうどこへやら。あんなに疲れていたはずなのに、なぜか元気まで出てまいりました。
そのオリンピックのことを、お檀家さんにお話しいたしますと、7年先じゃろう、もうわしゃおらんわ・・・といわれ、どきっといたしました。必ずしも楽しみにできる方ばかりではなく、場合によっては、その逆の立場の方もおられるはずです。またまた心は転落です。修行の足りない私の心は、いつもころころと転がるばかりです。
四苦八苦と申すとおり、この世の中には、苦しみや悩みがたくさんございます。とても1人で乗り切れるものではございません。お互い様で支え合える人がいてくれたら、どんなに心強いことでしょう。何事も1人でやってきたと言われる方も、見えないところで誰かに必ず支えてもらっているはずです。その中でも愛しい人と別れなくてはならない苦しみは、特別に思えます。
今年の8月の終わりに、家内の母親が亡くなりました。肺がんが分かって、2年半がんばりましたが、全身に転移して、もう手立てはありませんでした。最後の日まで意識があり、苦しい顔をほとんど見せず、家族に看取られながら、眠るように逝きました。お葬儀は、家族葬にしたいという喪主の意向がありましたが、町内の方に説得され、近所の方々にもお声をかけて、自宅で執り行われました。旦那寺のご住職の他に、同級生だったお寺さんも来られ、私と父も参列しましたので、4人のお坊さんに送られたことになります。きっと生前のたくさんのご縁と、永く暮らしてきた地元の自然に包まれて、安らかに旅立ったのだと思います。
最近、隣の人を見かけないなあと思っておりましたら、ホールでひっそりと葬儀を済まされていたことがありました。お家によってご事情があり、仕方のないことと思いますが、ご縁のある方を送ってあげられなくて、とても寂しく感じました。
私は、地域の民生委員をさせていただいておりますが、担当の300世帯の内、40世帯が、65才以上の1人暮らしの方です。また、30世帯が、65才以上の高齢者だけの2人暮らしの方です。高齢者だけの3人暮らしのお宅を入れると、2割5分の方が高齢者だけの世帯になるわけです。日頃、町内のお付き合いをしたくても、体力的に無理な方も大勢おられます。それに引け目を感じて、町内の方に遠慮されている方もおられるようです。こんな方々を1人暮らしの方同士、あるいは町内の方との、また、地域の包括支援センターの方とのご縁を取り持つことも、民生委員の活動の一つです。但し、民生委員だけでは、行き届きませんので、どうかそんな方がおられることに気がつかれた方は、声をかけてあげたり、民生委員の方へ教えていただけたらと思います。
仏教詩人の坂村真民さんの代表作から厳選した詩集『ねがい』の中で、「いつもいっしょ」という詩に出会いました。ご紹介いたします。
いつもいっしょ
いつもいっしょ!
これがわたしの信仰理念
木とも石とも
蝶とも鳥たちとも
いっしょ
人間はもちろん森羅万象
いつもいっしょに生き
いつもいっしょに息をする
だから一人であっても一人でない
沈むことがあっても
すぐ浮き上がる
ふしぎな奇跡が起きてくる
いつもいっしょ!
ああこの愛のことばを
となえてゆこう
この詩を読んだ時、朝のお勤めのご回向の最後にお唱えする言葉を思い出しました。
願以此功徳 普及於一切 我等与衆生 皆倶成仏道 です。読み下しますと、願わくばこの功徳を以て、普く一切に及ぼし、我等と衆生と皆ともに仏道を成ぜん となります。
私たちは、生まれる時、決して1人だけではありませんでした。両親をはじめ、たくさんの方の手を借りて、育ちました。食べるものも、着るものも、何人もの手がかかって、手元に届くのです。必ず、多くの方とのつながりがあって、今の自分があるのです。たとえお一人で暮らしておられても、周りにあるもの全てが、誰かとつながっています。そして最後の時を迎えた後も、必ず誰かの手にゆだねるしかないのです。だから、なるべく多くの人と直接関わって、いつも感謝の気持ちでつながっていていただきたいのです。どんな人もいずれ必ず旅立つ時がきます。どんな状況であっても生きていることはすばらしいことなのです。知らず知らずに多くの方とつながっているからです。
『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』今上映中の『風立ちぬ』の監督、宮崎駿さんが、今年の9月6日に長編映画の監督を引退すると宣言されました。その時のインタビューで「作品に共通したメッセージはありますか」という質問に対し、「子ども達に、『この世は生きるに値するんだ』と伝えるのが、仕事の根幹になければいけないと思ってやってきました。それは今でもかわっていません。」と答えられました。
宮崎駿監督の映画は、ほぼ観ておりますが、どれもワクワクして、心が素直になれます。「この世は生きるに値するんだ」という子どもへのメッセージが込められているのならば、大人が観ても、きっと子どものころの気持ちを思い出させてくれるでしょう。そして、忘れかけていた夢を抱いていたころの、生きる事へのエネルギーを再び、満たしてくれることは間違いありません。
実は、私たちの住むこの世の中の全ての現象には、お釈迦様の尊いメッセージが込められているのです。
法華経の第21番目のお経、如来神力品のなかに、日月の光明の、よく諸の幽冥を除くがごとく、この人世間に行じて、よく衆生の闇を滅す とあります。太陽やお月様の光が闇をなくすように、お釈迦様の尊い御教えが、
私たちの悩みや苦しみを、悉く除いてくださいます。それは、遠くの方にあるのではなく、いつもすぐ近くで説いてくださっていて、それに気づくことが大切だということなのです。
さあ、今日の一日が始まります。皆様が大切なご縁に気づかれて、幸せに過ごされますように、今日もお祈りいたしております。
今朝は、岡山市北区庭瀬大坊不変院住職、秦宏典がお話しさせていただきました。ありがとうございました。 南無妙法蓮華経