おはようございます。本日は、岡山市北区船頭町 日蓮宗妙勝寺住職 藤田玄祐がお話し申し上げます。
もうふた月ばかり前のことになりますが、4月8日はお釈迦様のお誕生を祝う花まつりでした。岡山市佛教会でも、後楽園を会場に花まつりの法要ならびにイベントを開催しました。後楽園内の「鶴鳴館」をお借りして、各宗派の僧侶による花まつり法要、紙芝居を使った法話、それに今年はアマチュアの楽器演奏グループをお招きしてミニコンサートなどを催しました。
あれからもう二ヶ月経ちましたが、この6月にお釈迦様のお誕生を祝うイベントを行っているところがあります。と言っても日本国内ではなく外国でのお話です。実はタイやシンガポールといった東南アジアの仏教国では、今年は6月1日がお釈迦様の誕生を祝う日になっていました。ベサックデーとかウェーサクの日と呼ばれていますが、シンガポールなどでは国民の祝日にもなっています。
日本に伝えられた仏教は、インドから中国や朝鮮半島を経由したいわゆる北伝仏教ですが、東南アジア地域に伝わった仏教は南回りの南伝仏教であり、お釈迦様のご生涯についても伝えが少し異なっています。
日本では、お釈迦様は4月8日にお誕生になり、12月8日にお悟りを開かれ、2月15日にお亡くなりになったと伝えられています。ですから、4月8日に御降誕会・花まつり、12月8日にお悟りを開かれました成道会、2月15日に涅槃会を営みます。
余談になりますが、西行法師の有名な歌、「願わくは花のもとにて春死なん その如月の望月の頃」は、お釈迦様のご命日である2月15日頃に自分も亡くなりたいという西行の願いを歌に託したものです。旧暦の2月15日は今年ですと4月3日に当たりますから、当に桜の花真っ盛りの頃になります。
さてこのように日本ではお釈迦様の誕生と成道と涅槃は別々の日とされていますが、東南アジアの仏教国では、これらのことは同じ満月の日におこったと伝えられており、およそ5月または6月の満月の日がお釈迦様の誕生・成道・涅槃のいわゆる三大仏事の記念日とされています
ですから、6月1日のベサックデーはお釈迦様の誕生を祝うだけでなく、誕生・成道・涅槃の三大仏事を併せたものであり、盛大なお祭りになります。
またこれはあまり知られていないことかもしれませんが、東南アジアの多くの仏教国の要請を受けて1999年、国連ではベサックデーを「仏教徒の宗派、人種、国境を越える平和祭典の日」と認定しています。日本ではベサックデーあるいはウェーサクの日という言葉自体をあまり聞くことがありませんが、実は国連が認めた仏教徒の唯一の記念日なのです。
昨年、私どものお寺ではご縁をいただき、このベサックデーに合わせてシンガポールにある日蓮宗寺院にお参りさせていただきました。今年は6月1日がベサックデーでしたが、ベサックデーは満月に合わせて定められますので、太陽暦に直すと毎年月日が替わります。因みに昨年は5月13日が満月の日、ベサックデーでした。
私たち妙勝寺参拝団は、昨年の5月12日、関西国際空港を出発し、翌5月13日、シンガポールの街中にある日蓮宗寺院、五重山題目寺に参りました。
題目寺は平成16年、日蓮宗公認となった寺院で開かれてちょうど10年。お寺とは言え7階建てのビルの一室が本堂で、小学校の教室を一回り大きくしたくらいの広さです。題目寺の信者さんは地元の中国系シンガポール人がほとんどで、日本語ができる人はいません。現在、題目寺のご住職は日本から派遣された野田上人という方が務められており、法要等の行事は英語でなさっているとのことでした。
当初はベサックデーの法要に妙勝寺参拝団も参列させていただくつもりだったのですが、野田ご住職はマレーシアの日蓮宗寺院の住職も兼ねており、当日はマレーシアの寺院にて法要の導師を務めるため、シンガポールにはいないことが分かりました。これは困ったことになったなあと思いながらお話を進めている内に、いつの間にか私がシンガポール題目寺のベサックデー法要の導師を務めることになってしまいました。こちらは英語が出来るわけでもありませんし、一度も訪れたことのないところですからお断りしたのですが、日本語で大方何とかなるからと説得されてしまい、心配しながら国内での準備を進めてきました。
さて5月13日、午前10時過ぎ、私たち参拝団は五重山題目寺に到着。地元の信者の方々が私たちを温かく迎えてくれました。早速英語で話しかけられますが、なかなか話がかみ合いません。これは困ったなあと暗い気持ちになったところ、「おはようございます」と流暢な日本語で話しかけてくれる女性がいました。地元の信者の方が心配して、シンガポール在住の日本人を通訳として招いてくれていたのです。ほっとしました。それからは彼女を介して、法要の準備・打ち合わせを行いました。
法要は日本語と英語と中国語で行うことになりました。お経やお題目は日本語読みなのですが、法要の最初の勧請や最後の回向、日蓮聖人の書かれた御遺文の一節などは、最初に私が日本語で唱え、続いて地元信者の代表の方が英語で唱え、また別の信者の方が中国語で唱えるというふうに進んでいくことになりました。
衣を着替え、いよいよベサックデー法要の開始です。私が導師席に着くと、左右に地元信者の方が座り、法要に合わせて木鉦や金・太鼓を上手に叩いてくれます。法要の途中、お題目が始まると信者の方々が御本尊様の前に進み、焼香します。本日はベサックデー法要なので、焼香の前にまず日本と同様に灌仏を行います。陶磁器で作られた誕生仏に、甘茶ではなく、沢山の花びらを浮かべた清らかな水をそそぎます。続いて日本と同様にお焼香。その後、これも日本と異なりますが、陶磁器で作られたお釈迦様が横たわる形の涅槃仏にジャスミンの花のつぼみを載せてお供えします。ベサックデー法要は、お釈迦様の誕生・成道・涅槃の三つを記念した法要だからです。お題目は30分ばかり続き、信者の皆さんは一人一人敬虔な祈りを捧げていました。
1時間余りの法要も無事終わり、最後に記念撮影。その後、信者の皆さんによる昼食のおもてなしをいただきました。信者さんそれぞれが、おかずやケーキ、果物などを持ち寄って、バイキング形式で一緒にいただきます。緊張もほぐれ、和気あいあいとした楽しい空気が流れ、改めてシンガポール題目寺にお参りさせていただき本当に有り難かったなあとの感慨を持ちました。
最後の挨拶の中で、私は日本から持参した葉祥明さんの絵本「リトルブッダ」を紹介しました。この本は、日本語と英語で書かれており、次のように始まります。「ぼくはリトルブッダ! みんなもリトルブッダ! いつかブッダになるために、こうしてみんないきているんだ」。この絵本には、「私たちはみんな仏になることができる」という法華経の大切なメッセージが込められています。
仏教徒の宗派、人種、国境を越える平和祭典の日であるベサックデーにふさわしい本だと思い、紹介させていただきました。
本日は、岡山市北区船頭町 妙勝寺住職 藤田玄祐がお話し申し上げました。
本日の担当は、瀬戸内市長船町福岡の日蓮宗妙興寺住職、岡田行弘でした。