恩人たちに手を合わす

 川中美幸さんがNHKの歌謡コンサートでこんなことを話していました。
 私は挫折を味わいました。いくら歌っても歌っても売れない。バーやキャバレーで名前を覚えてもらおうと色紙にサインして配っても受け取ってもらえない。それどころか「こんなのいらねえやー」と投げ捨てられました。でも、そんな人たちのおかげで「なにくそッ! 今に下さいと言わせてやる!」と頑張った。それで、今の川中美幸さんがあるのですね。
 「月の法善寺横町」「北国の春」「高校三年生」「星影のワルツ」「他人船」「雪椿」などを作曲した遠藤実さん。歌が好きで、地元の歌謡コンクールや芸能大会に出ていましたが、いつも鐘ひとつ。「お前さん、恥かきだもんのう」と言われました。それでも懲りず、NHKののど自慢が新潟に来たので出て、また鐘一つ。やはり歌手への望みが捨てられず、上京して流しをしながら、いくつかのレコード会社を回ってテストを受けました。最後に行った会社で「あの顔、あの格好で歌い手になるつもりかね」と審査員同士でしゃべっているのが聞こえました。その時思ったことは「あの人たちも人間だ。こんな格好をしているぼくだって人間だ」と笑われたのをバネにして、作曲の道へと進んだのです。
 お釈迦さまは従兄弟のダイバに修行の邪魔をされたり、教団をのっとられそうになったり、命さえ奪われそうになりました。けれど、ダイバがいたので悟りを得ることが出来ました。日蓮聖人も「念仏信者の東条景信に命を奪われそうになったが、景信のおかげでお題目を広めることが出来た」と書き残していらっしゃいます。
 今月の掲示板に書きました。
「わたしが私になれたのも、みんなあなたのおかげです。恩人たちに手をあわせ、ありがとうございましたと、ひとりごと」

心の散歩道VOL.21(2006年発行)より

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